【帯広刑務所編】北国の遅い春、緑の爆発と短い夏、そして秋———塀の中の運動会《懲役合計21年2カ月》
シャバとシャブと地獄の釜Vol.01
◼︎塀の中の運動会の華——400mリレー
400メートル・リレーのメンバーは、一番手が無銭飲食、二番手はシャブ中、そして三番手にコンビニ強盗、四番手がドロボーといった、実にバラエティに富んだ罪名の懲役たちが揃っていた。
第一走者が頭にキリリッと鉢巻きを締め、真剣な表情でスタートラインに立つと、「パーン」とい う合図の音とともに一斉にスタート。我が印刷工場の第一走者である無銭飲食は見事なまでに完璧な フォームで腕と脚が上がり、どの走者よりも美しい走り方だったが……、なぜかドンケツだった。
ところが二番走者のシャブ中がバトンを受け取るや、見る見るうちに差を縮め、一人抜き二人抜き し始めた。
これには印刷工場の懲役たちが興奮してしまい、まるで「さすらいのギャンブラー」たちが競輪場 や競馬場で券を握りしめて熱くなっているような形相で、
「行けェ! 行けェ! それ抜けェー!」
目を吊り上げ、口角泡を飛ばし、顔面に青筋を浮き上がらせて絶叫する。
そんな中、旅慣れた懲役の一人(昔、啖呵売をしていたという香具師(やし)のシャブ中のオッサン)が実況中継 を始めた。
「抜きました!また一人抜きました! 覚せい剤中毒患者、今、下着ドロボーを抜いて二位です!速 い、速い!脚が速い! まるで借金取りに追われている債務者のようです!」
などと、昔の府中刑務所の運動会をとさせるかのような、当意即妙な台詞で場面を盛り上げるので 、ボクは腹を抱え、喉チンコを震わせて笑ってしまった。
一気に四人を抜いたシャブ中は、コンビニ強盗にバトンタッチ。デカい図体のコンビニ強盗が、これまた鬼のような形相で刺青の入った腕を振り上げ、ドタバタといった感じで走り出す。
先頭の走者とは数メートルしか離れていない。このままバトンをドロボー界のブルース・ウィリス を自認する西に渡せば、勝てたかもしれなかった。しかし、コンビニ強盗は最終コーナーを曲がって 、あと十数メートルというところまで来たとき、コンビニの外でつまずいて捕まったときと同じよう に、なぜか、ここでも転んでしまう。
閻魔の庁で罪人が閻魔大王に会ったとき、極楽浄土へ行けたはずの八尾(やお)地蔵の手紙をくしたために、閻魔大 王に地獄へ蹴落とされてしまったかのような運の悪さである。
このようにして運動会は終わり、印刷工場は入賞には遠く及ばなかった。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
- 1
- 2
KEYWORDS:
じんさん、大ヒット曲『異邦人』のシンガーソングライター久米小百合さんの(久保田早紀さん)の番組「本の旅」に出演いたしました。
2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。